────5月7日。

 アラームの時間通りに目を覚まし、私は深く息をついた。

 まともに眠れたのかよく分からないくらい、何だかどっと疲れている気がする。

 身体を起こしたとき、じくじくと刺すように胸が痛んだ。

「痛……」

 何だろう、この感じ。

 まるで鋭利なナイフで刺されたかのような強い痛みは、支度を終えた頃にも消えなかった。

 ────ふとしたときに理人の最期を思い出しては塞ぎ込み、眠れない夜を繰り返す毎日。

 寝不足なせいで、身体が不調を来しているのかもしれない。

 そう結論づけ、ひとまず納得しておくしかなかった。

 支度を整えて家を出た私は、コンビニに寄ってから学校へ向かうことにする。

 ループが終わって1週間……。

 理人の死の衝撃は、少しも癒えないままだ。



「……っ」

 昇降口で靴を履き替えたとき、不意に目眩を覚え、思わずたたらを踏んだ。

 コンビニで買ったミルクティーのペットボトルが手からこぼれ落ち、ころころとすのこに転がる。

 ふわ、と浮遊感に包まれた。

 そうかと思えば、次の瞬間には誰かに両肩を掴まれていた。

「大丈夫?」

 覗き込むようにして問われ、はっとした。

「……あ」

 ……びっくりした。
 一瞬、理人かと思った。

 支えてくれたのは、クラスメートの相原(あいはら)くんだった。

「だ、大丈夫。ごめん、ありがとう。……相原くん」

 あまり関わったことはないが、人懐こい性格で友だちが多いことは知っている。

 理人や向坂くんよりも身長が高くないためか、どこか身近に感じてしまう。

 童顔で可愛らしい顔立ちだから威圧感がない、というのもあるかもしれない。

(あおい)でいいよ。ていうか、本当に無理してない? 今にも死にそうな顔してるよ」

 彼は私を離すとそう言いつつ、屈んでミルクティーを拾ってくれる。

 差し出されたそれを受け取りながら、私は自分の頬に触れた。

(死にそう……?)

 そんなにひどい顔してるのかな。

 鏡を見なくても、自分の顔色が青白いことは何となく分かる。

 何だか身体の内側が重くて、そのせいでだるい。

「……平気。ちょっと寝不足で、調子悪くて」

 曖昧に笑うと、蒼くんは眉を下げた。

「……理人くんがあんなことになって、ぐっすり眠れるわけないよね」

 何だか、少しだけほっとした。

 私の抱く悲しみに歩み寄り、共感してくれる人がいるという事実に。