「うぅ……っ!」

 目が覚めた瞬間、勢いよく起き上がった。

 ひりつくような喉元を押さえ、顔を歪める。

 ベッドサイドの小さなテーブルに置いてあった水を手に取り、口に流し込んだ。

 何だか喉がからからだ。
 猛烈に気分が悪い。

 あんな死に方をしたのだから、当然なのかもしれないけれど。

(まずい……)

 そう感じるのはさすがに気のせいだったけれど、洗剤のあの味はしばらく忘れられないだろう。

 また、苦痛や気持ちの悪さは残ったままだった。
 頭も割れそうだ。

 そんな不調のせいか、何となく息苦しい。

「私……」

 小さく震える両手を見下ろした。

 すぐそこまで迫ってきている死の気配に、ぞくりと背筋が冷たくなる。

 自分の命はもう本当に残りわずかなのだろう。
 不思議とそれが分かる。

 死ねるのはあと2回……いや、1回?
 分からないけれど、とにかく猶予なんてない。

 状況はまだ何一つとしてよくなっていないのに、嫌でも見えてきたリミットが私を焦らせる。

 何とかしなきゃ。
 向坂くんの殺意をどうにかしなきゃ。

 私は深いため息をこぼし、両手で顔を覆った。

「どうすればいいの……?」

 やるべきことは分かっているのに、そのための手段が見つからない。

 私の声が彼に届かなかったら?
 このまま分かり合えなかったら?

 そんなはずない、と信じようとしていた。

 でも“昨日”の向坂くんを目の当たりにしたら、その気持ちも揺らいでしまった。

 これ以上はどうにもならないのかもしれない。
 もう限界なのかもしれない。

 何とかしようって覚悟も、頑張り方も、間違っているのかもしれない。

 記憶なんてなくしたままの方がよかったのかな。

 何も知らずに殺され続けることになっても、毎朝毎朝絶望することはなかった。

 目が覚めた時点では、向坂くんを信じる気持ちは揺るがないから。

 ……その方が幸せだったのかな?

 今はもう、自分でも分からなくなってしまった。

 諦めなければ以前の彼に戻ってくれる、って信じることが正しいのかどうかさえも。

 叶わない期待は、自分を傷つける刃にしかならなくて。