こんなところに閉じ込められていたら、いくら叫んでも蒼くんには届かない。

 だからこそ向坂くんは私を攫ったのだろうけれど。

 ここなら誰にも邪魔されることなく、私を殺せる。

 噛み締めた唇が震えた。

 目の前の現実を拒絶しようとするほど、リアリティが増していく。

 泣きそうになった。

 悲しいのか悔しいのか分からないけれど、とにかく受け入れたくない。
 こんな向坂くんも、自分の運命も。

「何で、こんなこと……。どうしてここまでするの……?」

 声が震えてしまう。

 この期に及んで、まだ希望に縋ろうとしている。

「好きだから。……お前の苦しむ顔と死んでく姿」

 向坂くんは淡々と迷わずそう答えた。

 その答えは、彼の中ではずっと決まっていたものなのだろう。

「……っ」

 浮かんだ涙がこぼれ落ちた。
 愕然として、強張りがほどける。

 ────理人のときみたく、正面から話せば新たな面が見えてくるかもしれない。
 向坂くんの気を変えられるかもしれない。

 そう期待していた。
 信じていた。

 でも、彼は一切揺らがなかった。

 どうしてこんなことになってしまったのか、ショックでならない。

 何度殺されても彼を嫌いになれない自分の気持ちが苦しい。

 向坂くんは、本当に私を殺すためだけに今日を繰り返しているんだ。



「……泣くなよ」

 向坂くんは小さく言った。
 少しだけ困っているように見えた。

「頼むから」

 彼の手が伸びてきて、思わず身を縮めた。

 また首を絞められるのかと思った。
 ……けれど、違った。

 向坂くんは親指で私の頬を拭ってくれた。

 狂気的な彼とは似ても似つかないほど、優しくてあたたかい温もりが残る。

 戸惑いながらその双眸を見つめれば、向坂くんの顔に暗い影が差した。

 少しは残っているのかもしれない。
 罪悪感というものが。

「…………」

 すっかり言葉を失っていると、重たい静寂がのしかかってきた。

 おもむろに立ち上がった向坂くんはベッドに腰かける。

 どうやら今すぐ殺す気はないみたいだ。

(でも、どうしたら────)