*



 目が覚めたとき、斑点のような模様の広がる白い天井が視界に飛び込んできた。

 私の部屋じゃない。

 消毒液みたいなにおいが、つんと鼻先を掠める。

(ここ、どこ……?)

 戸惑って瞬きを繰り返した。

「気付いたか?」

 突然降ってきた声に驚いてそちらを見やると、向坂くんがいた。

 ベッドの傍らの椅子に腰かけ、悠々と腕を組んでいる。

「こ、向坂くん……!?」

 まずい、どうしよう。
 このまま殺されたら────。

 咄嗟にそんな恐怖心が湧き、私は布団を握り締めながら起き上がろうとした。

 しかし、冷静な彼に阻まれる。

「おい、いきなり動くな」

 上から肩を押さえられ、身動きが取れなくなる。

「お前さ、昇降口で倒れたんだよ。で、ここ保健室な。センセーは会議だとかでいねぇけど」

 そう言われ、きょろきょろと周囲を軽く見回した。

 カーテンが引かれていたが、隙間から室内の様子を窺える。

 倒れた私を誰かが保健室まで運んでくれたんだ。

 彼がここにいることを考えると、その“誰か”はもしかしなくても────。

「向坂くんが運んでくれたの?」

 思わずそう尋ねると、どこか言いづらそうに答えが返ってくる。

「……まぁ、な」

 私が大人しくなったためか、彼は手を離して椅子に座り直した。

 本当に向坂くんが運んでくれたんだ。
 まさか彼が助けてくれるなんて、と驚いてしまう。

 どうやってだろう?
 背負ってくれたのかな。横抱きにしてくれたのかな。
 重くなかったかな。

 暢気にもそんなことが気にかかった。

 緊迫した現実を忘れそうになる。

「ご、ごめんね、迷惑かけて。ありがとう」

 今さらながら、向坂くんと普通に話せていることに気付いて驚いた。

 逃げられない状況なのに。

 助けも期待出来ないのに。

 彼がいつもみたいに物騒なことを口にしないからか、少しだけ以前のように戻れた気がする。

「別に。……つか、大丈夫かよ? 相当具合悪そうだな」

 案ずるような眼差しを注がれ、私はさらに困惑した。

(本当、どうしちゃったの……?)

 いつもの向坂くんと様子が違う。
 いや、これが本来の彼であるはずなのだけれど。

 何だか違和感を拭えない。

 “昨日”までの向坂くんなら、この状況で私に手をかけないわけがないのに。