────それでも、ふとしたときに今日の終わりを意識してしまう。

 どんなに嫌でも、1日にも命にも限りがあるから。

「……もう、決めたの?」

 蒼くんの声はあくまで優しい。
 でも、どこか隙のなさがある。

 何を聞こうとしているのかは分かった。

 ループを終わらせるための、最終的な選択だ。

 つまり────向坂くんを殺すか、私が死ぬか。

 のんびりと考えあぐねている時間はない。

 苦痛が身体を蝕んでいくから。
 いつか死に追いつかれてしまうから。

 私は、死にたくない。

(でも……)

 だから向坂くんを殺す、という決断には至らない。至れない。

 私は弱々しく首を左右に振った。

「出来ない……。向坂くんを殺すなんて」

 今まで紡いできた日々や思い出を、ぜんぶ否定することになりそうで。

 その選択はすなわち、彼を見限るも同然だ。

 正論や理屈だけじゃ割り切れない感情が、胸の内に蔓延って絡みつく。

「じゃあ自分が死ぬの?」

「それは────」

「理人くんの死を無駄にして?」

 はっきりと言われ、心臓が冷たく鼓動した。

 あの日の出来事は今でも色濃く焼きついたままだ。

 理人は自分の命をなげうってループを終わらせた。
 私の幸せを願って。

 なのに私が死を受け入れたら、理人の思いを無意味なものにしてしまう。
 またしても裏切るようなものだ。

 そういう意味でも、私は死ねない。

 だけど────と、思考はずっと堂々巡りだった。



「……好きなの? 仁くんのこと」

 蒼くんが真剣な声色で問うてくる。
 どこか緊張しているようでもあった。

 どう答えるべきか迷って、結局言葉が見つからなくて、気付けば頷いていた。

 ……好きなんだ。
 私はまだ、向坂くんのことが。

 何度残虐な本性の餌食になっても、想いは消えなくて。

 以前の彼を知っているだけに、あんなふうに変わってしまっても、まだ信じようとしている。

 そのことを自分でも改めて強く認識した。

 ……早く鐘が鳴って、夢が終わればいいのに。
 魔法は一向に解けない。