一層真面目な表情を浮かべた蒼くんは、掴まれた腕と私を見比べ、どうすべきか惑っていた。

 とにかく尋常じゃないことは伝わっているみたいだ。

「何……? どういうこと?」

 不穏な気配に怯みつつも彼はそう聞き返してくれる。

 さすがに取り合ってくれないかと思ったけれど、蒼くんが優しくてよかった。

「私、殺されるの。隣のクラスの向坂くんに」

 彼の腕を離しつつ、なるべく淡々と事実を告げる。

「実際にもう何度も殺されてて、そのたびに時間が巻き戻る。……“今日”は初めてじゃない、もう生きたの」

 蒼くんは気圧されたように黙り込み、ただじっと私の双眸を見つめていた。

 真剣さを測るみたいに。

「ちょっと、待って。……本当に言ってる?」

「本当。こんな嘘つかないよ……!」

 訴えかけるように見返したけれど、彼は困ったように笑って視線を流した。

 信じられない、と言わんばかりの表情だ。

 それが普通の反応なのだと思う。

 否定されないだけまだましだ。

 私だってクラスメートから突然こんな相談を受けたら、からかわれていると思うはず。

 でも、だからって彼の協力を諦めるわけにはいかない。
 きっと、今頼れるのは蒼くんしかいないから。

 私は小テストの勉強をしている女の子の方を指し示した。

「見て。もうすぐあの子のシャーペンが落ちる」

 果たしてその言葉通り、机の上を転がったシャーペンが床に落ちた。

 それを目の当たりにした蒼くんは、驚いたように瞠目して私を見やる。

「凄い。何で分かったの?」

「言ったでしょ……? 私、今日はもう何度も生きてるの」

 実際に教室の風景を目にしたのは、そしてその記憶があるのは、少なくとも“昨日”だけだったけれど。

「でも、シャーペンくらいなら偶然かも────」

「じゃあ、あれ見て。あの人が立ち上がったとき、ぶつかって水がこぼれるから」

 とにかく必死だった。

 蒼くんにループのことを信じて貰わない限りは、話も事も進まない。

 スマホを囲んでいた男の子の中の一人が立ち上がると、その拍子に後ろを通った別の男の子にぶつかった。

 私の言葉と(たが)わず、衝撃でペットボトルの水がこぼれる。

 蒼くんは目の前の光景に圧倒されたみたいだった。