項垂れるように突っ伏したとき、不意に誰かが正面に立った気配がした。

 どく、と心臓が跳ねる。

(向坂くん……!?)

 彼がもう殺しに来たのかと、慌てて顔を上げた。

 しかし、そこにいたのは案ずるような表情を浮かべる蒼くんだった。

「大丈夫?」

「あ……うん。平気」

 一瞬気が抜けて、そう小さく頷くので精一杯だった。

 今日も彼は、私が理人のことで沈んでいると思って心配してくれているのだろう。

 私は机の上に置いたミルクティーを一瞥した。

 まともに悲しむ暇もない事態に、再び巻き込まれている。

「強がんなくていいよ。理人くんのことで辛いんでしょ」

「……うん」

 蒼くんまで巻き込みたくないのに、彼にはいつも声をかけられる。

 きっと、定められている5月7日の出来事なのだろう。



 突き放さなきゃいけないことは分かっている。

 ループに関わったら、蒼くんの運命まで変えてしまうかもしれない。

 またしても不幸が待っているかもしれない。

 だけど、孤独に溺れた私の心は悲鳴を上げていた。

 感情の部分でも、考える意味でも、これ以上一人ではどうにもならない。限界が見えている。

 命の猶予はない。時間がない。

 そんな事実と、今日もまた死ぬのだという現実が、私を焦らせ追い込んでいく。

 誰かに縋りたい。優しさを分けて欲しい。
 支えにしていた心の拠り所も失った。

 ひとりぼっちでは、頑張り方も思い出せない。
 
「……っ」

 ゆらりと視界が揺れ、息が詰まった。

「菜乃ちゃん?」

 戸惑ったように首を傾げた蒼くんは、私の前の席にそっと腰を下ろす。

 その目を真っ直ぐ捉えても、ぼやけて滲んだ。

 自覚する。
 追い詰められるたび、その都度目の前の相手を頼ってばかりだ。

 結局、私は今でも、誰かが支えてくれないと一人じゃ何も出来ない駄目な私のままなのかもしれない。

(だけど……)

 情けないけれど、この状況では悠長なことなんて言っていられない。

 理想を追えるほど死にたがりじゃない。

 殺されたくないだけ。

 諦めたくないだけだ。

「どうしたの、本当に大丈夫? 死にそうな顔してる」

 きっと、蒼白な顔色をしているのだろう。

 指先まで冷え、呼吸が震える。

「本当に死んでるって言ったら、信じてくれる……?」

「え?」

 蒼くんの瞳が困惑気味に揺らぐ。

 天板に置かれた彼の腕を掴み、私は強い眼差しを向けた。

「蒼くん、助けて」