時にはオセロに夢中になり、時には人生ゲームに時間を忘れて没頭した。
その時の真奈美の嬉しそうな横顔、、、。 それすらも思い出になるのだろうか?
 小学校の卒業式の日、クラスでお別れ会をやった。 学級委員をしていた菰田ひろ子が父親の転勤に合わせて県外の中学校へ進学したからだ。
ひろ子は物静かな優しい子だった。 だから真奈美とも仲良しだった。
「ひろ子ちゃん お別れね。」 「私たちさあ、また会えるかな?」
「会えるよ。 だって友達なんだもん。」
 担任だった坂井泉先生は紅茶を入れながらみんなの顔を見回した。 「実はね、先生も転勤することになったの。」
「嘘でしょう?」 「ほんとなのよ。 この学校に来て5年だからそろそろかなって思ってたら来ちゃったの。」
「次は何処に行くの?」 「次はね、吉野原小学校。 ここから離れちゃうんだ。」
「じゃあさあ、先生のお別れ会も一緒にやろうよ。」 横山俊樹が手を挙げた。
それでみんなは思い思いに挨拶をした。 真奈美は一人で泣いていたっけ。

 中学生になった時、セーラー服を着た真奈美を見てぼくはまたドギマギしてしまった。
「どうしたの? 猛君らしくないよ。」 「いや、その、あの、、、。」
何て言ったらいいんだろう? ここ2年の間に真奈美がすっかり変わってしまった気がするんだ。
 その年、ぼくは陸上部へ、真奈美はバドミントン部へ入った。
「うちの陸上部は厳しいんだ。 覚悟しろよ。」 先輩の玉沢真一がぼくを睨んでそう言った。
ぼくは小さかったから走り込みから特訓が始まった。 「よし。 柔軟が終わったら5キロ走ってこい!」
キャプテンの国岡が檄を飛ばす。 1年生は団子になって走って行く。
ぼくだって負けられなかった。 帰る頃には一番星が輝いていた。
夕食を済ませたら宿題もせずに寝てしまう。 おかげで忘れ物が習慣になってしまった。
英語の柿沢先生はぼくの顔を見るといつも困った顔をした。
「部活はいいけどさあ、いつもいつも宿題を忘れるんじゃ困るんだよなあ。」 しょうがないだろう、、、。
 真奈美はというと、こちらはこちらで鍛えられて悲鳴を上げていた。
「県大会でも記録を残してるんだから結果を出さないとねえ。」 ラケットを握ると俄然険しい顔になる。
でも休みの日にはいつもの真奈美に戻るんだ。 それでも今までよりはおとなしくなってしまったね。
それでもぼくらは仲良しだった。 いつまでも続くと思っていた。

 そんな2年の時、ずっと一緒だった武田紀子が病気で死んでしまった。
いきなりの知らせにぼくも真奈美も呆然とするしか無かったことを今でも覚えている。 「あんなに元気だったのに、、、。」
「そうだよ。 病気には無縁だって言ってたのにね。」
 紀子の葬式の日、ぼくらは初めて紀子の顔を見た。 やっと安心したような顔だった。
そして今、、、。

 クラスメートが死んだ時、ぼくらは初めて死ぬってことを本気で考えた。
だからといって何かが分かったわけではない。 自分の人生が変わったわけでもない。
ただ、今までそこに居た友達が影も形も無くなったという事実を確認しただけだった。

 授業中に居眠りをしていると先生より早く真奈美のゲンコツが飛んでくる。 これがまた痛いんだ。
一度などは「いてえ!」って大声を出したものだから、居眠りしていたことがばれて廊下に摘まみ出されてしまった。
「少しくらい考えてよ。」 「寝るほうが悪いのよ。」
「そりゃそうだけどさあ、部活も大変なんだし、、、。」 「じゃあさあ、優しいゆかりちゃんの隣に座ったら? ゆかりちゃんならしないでしょうよ。」
真奈美は口を尖らせて不満顔である。 ぼくは折れるしかなかった。
 掃除をしていても真奈美はやることを事細かにチェックしている。 「これくらいでいいだろう。」なんてことは無い。
潔癖症かって思うくらいだ。 でも真奈美の部屋に遊びに行ったことは無かった。
 ずっと給食だったから昼休みになると真奈美はいつも食管を抱えて歩き回っていた。
「ご飯が足りない人は言ってねえ。」 「あいよ。 俺にもっと食わせろ。」
「片山君は食べ過ぎだから少し減らしなさい。」 それを聞いたみんなはドッと笑いだす。
「けちんぼ! デブ!」 片山が文句を言うと真奈美はしゃもじを振りかぶって威嚇する。
それを見た片山は両手を上げて情けなく降参する。 「やったあ。 真奈美の勝ちだあ。」
それを聞いたみんなはまたドッと笑うのである。
 何処かで必ず真奈美とバトルをするやつが居る。 真奈美が居なくなった今でも会えばその話になる。
あの頃はそれなりに楽しかったんだな。 ぼくはふと涙ぐんでしまった。
雑貨店で働いている今でもぼくは忘れない。 いつも隣に真奈美が居たことを。