若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜

「もしもし。」

『花、連絡ありがとう、ホッとした。体調は大丈夫そうか?』
柊生の声が聞けて気持ちが少し落ち着く。

「今、康君とお昼食べて帰るところだよ。
ちゃんと食べれたから大丈夫。柊君もお疲れ様。講演会は問題無く終われた?」

『ああ、俺の方は大丈夫だ。
それより、暑いし早く家に帰った方が良い。俺も今から新幹線に乗るから、2時間くらいで帰れると思う。』

「懇親会とか大丈夫なの?」
誘いを断ってまで帰って来ようとしてるのではと心配になる。

『俺がいなくても大丈夫だ。後は秘書が上手くやってくれる。』

2人でそんな話しをしていると、花のスマホを康生が突然奪う。

「もしもし、兄貴?
花、悪阻が結構辛そうだ。体調が落ち着くまでは実家に帰った方が良いと思う。
誰かさんが仕事で忙し過ぎて、花を1人にほっとくなら、実家の方が安心じゃないのか。」

『悪阻、辛そうなのか?最近は落ち着いたのかと思ってた…』

「俺から見たら分かりやすく辛そうなんだけど、匂いに敏感らしいし、家でも大変なんじゃないのか?」

『そんな風には見えなかったから……花に代わって。』

「言わせない環境だったんじゃないの?とりあえず花は実家に帰らせる。」

険悪な空気になって来た事を花は心配して、スマホを強引に取返す。

「ごめんね、柊君。私は大丈夫だから、家に帰って待ってるよ。」
花は慌ててそう言うけど、

「悪阻、そんなに辛いのか?
俺と居る時は前より落ち着いて見えたから…ごめん、気付いてやれなくて。」

柊生から分かりやすく落ち込んだ声が聞こえてきて、花は申し訳ない気持ちになる。

「ほんとそれほどじゃ無いの。
ちょっと匂いとかで突然吐き気がするだけで、柊君と一緒の時は体調が良くてむしろ大丈夫なんだよ。
気にしなくて良いから気をつけて帰って来てね。家で待ってるね。」
花は自分の事でこれ以上柊生を心配させたく無いと思う。

「それが気を遣ってるって事なんじゃ無いか?」
隣で康生がため息を吐きながらそう呟く。

花は目だけで康生を睨み、柊生との電話をとりあえず終える。

きっと今頃、柊君は走ってでも急いで帰って来てしまうだろうと心配でならない。