ガチャッ、ガチャガチャ。

不意に玄関の鍵が開き、扉が開かれる音が廊下中に響き渡る。

花は反射的に、スマホを握り締めたまま走り出し玄関に向かう。

「柊君…お帰りなさい!」

廊下を走り、抱きつこと両手を広げるのに、柊生がストップ!っと言うかのように、片手を突き出し花を制する。

花はブレーキをかけ、なんとか玄関の上り框で足を止める。

「濡れるといけないから…ただいま。」

苦笑いしながらそう言う柊生をよく見れば、着ている背広はびしょ濡れで、髪もシャワーを浴びたかのように水が滴り落ちている。

花はびっくりして、慌てて洗面所にバスタオルを2枚取りに行き、びしょ濡れの旦那様の頭に手を伸ばしポンポンと拭く。

「傘は?折りたたみ傘持ってたよね⁉︎」
花は涙目で柊生に問う。

「花がくれた傘が壊れたらいけないと思って、駅から走って来たんだ。」

爽やかに笑いながら、水を含んだ革靴を脱ぎ、ついでに絞れる程に濡れた靴下を玄関のタタキ間で脱ぐ。

何の為にプレゼントしたのか分からない…
と、花は思いながら足元にバスタオルを引く。

「豪雨で水が溢れて、浸水している道もあったから、車も大渋滞だったんだ。」

そんな中を傘もささずに走って帰って来たんだ。
そこまで危険を犯して…
…と花は泣きそうになってしまう。

柊生は背広を脱ぎ、濡れて体に張り付いたネクタイとワイシャツをベチャッと土間に脱ぎ捨てる。

バスタオルで上半身を拭きながら、俯き加減の花を気遣う。
「花は大丈夫だったか?」

「私が帰って来た時はまだ、こんなには降って無かったから…。」
涙が出そうで柊生を真っ直ぐ見れないでいる。

「どうした?
半裸で悪いけど、一回、抱きしめさせて。」
そう言って柊生は花を優しく抱きしめる。

花は雨で冷えてしまった柊生の体に抱きついて、耐えきれず涙が溢れてきてしまう。

「柊君が…無事に…
…帰って来られて…良かったぁ……」
シクシクと泣き始めてしまった花を、柊生は困り顔で、ギュっと抱き寄せ優しく慰める。

花に泣かれるのが1番苦手だ。