若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜

「お前の旦那から聞いた。
良い奴と出会えて良かったな…。」
父親らしい事を言う。

花はそっと顔を上げてそこで始めて父を見る。

子供の頃の記憶は少なく、ただ、恐怖心しかなかったから、既に父の顔さえも思い出せないくらいだった。

色眼鏡でどこから見てもチンピラ風の男が目に映る。

父もソワソワと緊張しているのか目線は合わない。

そんな父を見て花は少し気持ちを落ち着ける。
父も唯の人なんだ…。

なぜが、ふとそう思った。

子供の頃受けた怖いと言う印象が、今は薄れている。
父が歳を取って丸くなったからだろうか?

「お元気でしたか?」

花の口から不意にそんな言葉が出る。

昔より明らかに痩せていて威圧感も薄れている。

「ああ…ちょっと前に胃潰瘍で入院して、それから酒は絶ったんだ。
…若気の至りだな…。」
父がそう弱音を吐く。

あの頃、日柄一日中飲んで酔っ払って、荒れている姿しか目にしなかった。

父らしい事をしてもらった覚えも一つとして無い。

「…今更だけど…花には悪い事をしたと思っている。
小さかった花に手をあげて、怖い思いをさせて申し訳なかった。
反省している。
許して欲しいなんておこがましい事は言えない。」
父が花に深く頭を下げる。

花は何と答えるべきか…言葉を無くす。

ただ、いろいろな感情が込み上げて来て涙が溢れ出す。