若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜

「花か?」
不意に後ろから声をかけられ、花はドキッとして肩が揺れる。

緊張を隠しきれず、バクバクと高鳴る心臓を抑えながらゆっくりと振り返る。

そして、その男を見る。

瞬間、父だ。と認識する。

椅子から立ち上がりぺこりと頭を下げて、

「お、お久しぶりです。花です。」
緊張のあまり声が上擦る。

「待たせて悪かったな。」
父はそう言うと、花の前の席に座る。

花はそれをスローモーションのような感覚で見つめ、直立したままの状態で手に汗を握る。

「まぁ、座ってくれ。」
父から遠慮がちにそう言われ、我に返って椅子に座る。

「大きくなったな…元気そうで良かった。」

ポツリと話し出す父も、照れがあるようでなかなか花と目を合わせない。

花も俯きがちに自分の手を見つめながら、こくんと頷くしか出来ない。

「…結婚したんだって?」
父がポツリと聞く。

「はい…子供も1人います。」
花も俯いたままそう伝える。

柊生は遠目でも花の緊張が伝わり心が揺れる。
助けに行くべきだろうか、と迷う…

椋生を見ると気持ち良さそうに良く寝ている。

もう少し様子を見ようと、自身の気持ちを抑え花達を見守る事に徹する。