「本気で思ってる?
柊君って意外とそういうの疎いよね。
若旦那様じゃ無くなっても大人気だよ。
商店街歩いてたらすぐ声かけられるでしょ?」

日頃から、商店街を一緒に歩くとあらゆる人から声をかけられている翔君なのだ。

「柊君の奥さんが私だって知られたら、どんな嫉妬の嵐になるか…今から心配だよ…。」

私はため息混じりでそう伝えてみる。

柊君はやっと本気で心配になったようで、

「花にそんな負担はかけられない。
何かあったら直ぐ俺に言えよ。
花が辛い時に助けられないのが1番辛いんだかたらな。」

と、真顔でそう言ってくれた。

「ありがとう、その時はちゃんと言うね。」

私はホッとして、ドアノブに手をかけて外に出ようとする。

その手を不意に柊君に捕まえられ、引き寄せられる。

えっ⁉︎っと驚き顔を向けると、チュッと軽くキスをされる。

「気を付けて行ってらっしゃい。転ばないように注意して。」

ぎゅっと抱きしめられ、ついでに頬にもキスをされる。

「…行ってきます。柊君も気を付けてね。」
照れ笑いしながら今度こそ外に出る。

手を振って保育園に向かって行く私をしばらく見守り、終君はその場を後にする。

幼い頃は辛い事ばかりの連続だった。

実の父から逃げこの街に辿り着くまで、恐怖と不安ばかりの毎日だった。

私がそれでもずっと笑顔にいられたのは、

兄のように、時には父のような目線で、ずっと私を見守ってくれた柊君のおかげだと思っている。