「それより、
明日から花のお気に入りの店のビュッフェメニューが変わるらしいよ。
椋生は俺が見てるから、たまには友達と出掛けてこれば良い。」
スマホの画面を見せながら、終生は花に提案する。

「えっ?本当だ。
スイーツフェアが始まったんだ。
どうしよう。久しぶりに詩織ちゃんと言ってこようかなぁ。」
社会人になってから忙しくて、友達とのんびり会う時間も無かった。
大親友の詩織には出産後に病院で一度会ったきりだ。

「ちょっと後で詩織ちゃんに連絡してみるね。」
嬉しそうに花が笑うと、柊生は少しホッとする。

退院してから2ヶ月ほど、花はずっと椋生の世話ばかりで、夜間の授乳のせいか睡眠不足のせいか食も細い。

産後は太りやすいから気を付けてるだけだと花は言うけれど、柊生から見たら少し痩せてしまった気がしてならない。

「でも柊君、椋ちゃん母乳以外飲んでくれないからクズったら大変だよ?1人で大丈夫?」
花は柊生の事が気になる。

「大丈夫。
親父から椋生を連れて来いってしつこくメールが来てたから、実家に連れて行ってみんなと見るよ。」
それを聞いて花もホッとする。

柊生は子供が生まれてから、仕事以外の時間はほぼ花のサポートばかりで、柊生こそのんびりする時間が必要だと思っている。

「柊君も、たまには弓道して息抜きしたら?
もっと趣味とかやりたい事とか無いの?」
突然、花からの問いかけに少し戸惑いを見せながら、

「俺は別に…弓道以外の趣味とか無いし…
強いて言うなら、花を愛でる事が出来たら最高だけど。」

愛でるとは?

花は意味が分からず食べていた手を止め、柊生を見つめる。

悪戯っ子っぽい笑みを浮かべて、楽しそうにこっちを見ている柊生にハッとして、花は目を大きくする。

「そろそろいいんじゃないかな。
夫婦の営みは別に子を作る為だけじゃ無いんだ。
俺も長く我慢し過ぎて修行僧のような心境だったけど、花に負担が無い程度に花を愛でれば幸せだ。」

じっと見られて花は少し恥ずかしくなる。
「えっと……ちょっとまだお腹ぷよぷよだし傷口見られるのも恥ずかしいけど…どうしてもって言うなら…。」

真っ赤になって俯く花が可愛くて、柊生はついからかってしまう。

「じゃあ、今夜は椋生を俺が寝かしつけるから、その後の花は俺のものだ。」

そう告げて、柊生は夕飯をさっきよりも早いペースで食べ始める。

そんなに上手く行くかなぁと、若干花は心配になるけど女として求められるのは嬉しい。

フフッと笑い、柊生の健闘を祈りながら箸を持ち直し食べ始める。