街の中は暴風雨の後片付けにまだ騒ついている。

そんな中、旦那様の車に送られ私は優雅に出勤する。
普段なら自転車で慌ただしく通う道のりを、今日は左ハンドルの高級車に揺られ、のんびりとした出勤だから、なんだか申し訳ないような、悪い事をしているような気分になってしまう。

「花、帰りもちゃんと連絡して。迎えに行くから。」

心配性の旦那様は今日は事務仕事の日と決めているらしく、比較的落ち着いた出勤らしい。

「ありがとう。でも、歩いて帰れるよ。
買い物も寄りたいし、柊君の背広もクリーニングに出したいから。」

「そんなのコンシェルジュに頼めば良いのに、わざわざ花が持って行かなくても。」

柊君はそう言うけれど、

「旅館で贔屓にしているクリーニング屋さんだったら何とかしてくれるって、お母さんが言ってたから。
雨でびしょ濡れだったあの背広も、新品に生まれ変わるかもしれないよ。」

確か、採寸からオーダーメイドで作った背広だったはず。
そこそこの値の物だし、なによりも柊君が気に入っていた筈だから、出来れば元通りに直って欲しいと願ってしまう。

「ありがとう。復活出来ると良いけど、もしダメでも気にしなくていいからな。」

柊君は何よりも私の気持ちを心配してくれる。

「復活するに決まってるよ。
だって、会社設立に合わせて作った背広だよ。大切にしないと。」

そうだな。と笑いながら柊君は保育園近くの公園で車を停めてくれる。

結婚している事は園長先生にしか話していない。職場では一橋を名乗らず旧姓の宮本を名乗っている。

この街では、一橋の名は結構知れ渡っているからきっと働き辛くなる。

それに、結婚してもなお大人気の柊様の妻だと知られる事に恐れを抱く。
こんな私は、世間様に認めてもらえるのだろうかと…。

「花、結婚式に園の子供達を招待するんだったら、結局一橋の事はバレるんじゃないか?」
ふと、柊君が言って来る。

「そこなんだよね…。
結婚式の後、ちょっと働き難くなるかなぁ。
柊君ファンのママさんとか未だに多いみたいだし。」
ここぞと思い、私が恐れているのはその事なのよ。と、アピールする。

「そこまでじゃないだろ。
もう商店街の司会もしてないし、若旦那は康生に譲ったんだから。
今じゃ、ただの会社員だ。」

社長業は唯の会社員では無いと思うけど…?

それに、そこまで有名人じゃないだろと、当の本人は思っているからタチが悪い。