花の待つ病室に帰る。
ドアを開ける時、柊生は深く深呼吸する。

犯人が誰か伝える事は花にどれだけ深いダメージを与えるか予想がつかない。

2週間後には帝王切開で出産予定だ。
そんな大事な時期に…。

柊生は迷う。

ガラガラガラ…

そのタイミングで内側からドアが開く。

「お帰り、柊君。なかなか入って来ないから待っていられなかった。」
フワッと笑いながら花が出迎えてくれる。

「…ただいま。ごめん、ちょっと考え事してた。」
柊生は取り繕うように笑い病室に入る。

「今日、2人は来なかったのか?」
間柴と美波が居ないのは気を遣ってくれたせいだろうと柊生は思う。

「さっきまで居たんだけどね。きっと、今夜は柊君が帰り辛いだろうと思ってくれたんだと思うよ。」
花が柊生の脱いだ背広をハンガーに掛ける。

「犯人が分かった。
ただ、花に伝えるべきか迷って…なかなか一歩が出なかった。それは俺の弱さなのせいだけど…。」
柊生は言葉を濁す。

「心配しないで。私だってもう直ぐママになるんだよ?少しは強くならなくちゃ。」
そう言って柊生に近付いて来るから、

少し怖気付いているのは柊生の方で、手を洗いに洗面台に行ってしまう。
それを静かに見つめながら花も何と無くドキドキと緊張してくる。

花はソファに座って柊生が話し出すのを大人しく待つ事に決める。

柊生も戻って来て花の横に座る。

「夕飯はもう食べた?」
たわいもない話をしながら、愛おしそうに花のお腹を撫ぜる。

「さっきご飯届いたんだけど、柊君と食べようと思って待ってたの。」

「そうか。じゃあ、腹減っただろ?
一緒に食べよう。」
うん。と花が頷く。

「犯人だけど…宮城可奈だった。」
突然サラッと柊生が言うから、花は危うく聞き逃すところだった。

「えっ…と、柊君の同級生の…。」
少し前にファミレスで偶然会った彼女を思い浮かべ、花は首を傾げる。

「だけど、彼女は私の勤め先なんて知らないはずだよ?」

「花の、保育園にたまたま子供を預けていたらしい。」

ああ、だからか。と、花は妙に納得して、
「そっか。」
と頷き、花は夕飯を取りにベッドに行ってしまう。