若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜

辺りが段々と明るくなって来て、夜が明けた事を知らせる鳥達の囀りが聞こえだす。

一睡も出来ずにいた俺は、ボーっとする頭で花を見つめる。

一晩中握り続けていた花の手がぴくっと動いた気がする。

「花?…花、起きて、朝が来た。」
祈りにも似た思いを込めて、そっと口付けをする。

瞼が少し痙攣する。
「花……!?」

花が薄ら目を開ける。
「分かるか?」
焦点を合わせるように顔を覗き込む。

「…柊君……ここは?」
力無い声だけど、確かに花が話し出す。

「…病院だ。保育園の階段から落ちて、救急車で運ばれたんだ…どこまで覚えてる?」

それだけ言うのが精一杯で、不覚にも涙が出そうになる。

思いっきり抱きしめたい衝動に駆られるが、今の花は絶対安静だ。

俺は、気持ちを抑え花の手を握り締めベッドに伏せる。

そんな俺を花が反対の手で優しく頭を撫でてくれる。

「ごめんね…心配させちゃって。

…赤ちゃんは………大丈夫?」

花の不安を早く取り除いてやらねばと思うのに、泣きそうな俺は言葉が出ない。

無言で頭を縦に振って何とか伝える事しか出来なかった。

「…良かった…。」
花も安堵しフーッ息を吐くのが伝わる。

俺はというと涙が止まらずになかなか顔を上げられない。
男たる者人前で泣くなと小さい頃からの祖母の教えに反してしまう。

そんな事を頭の片隅に思いながら、

だけど花なら許してくれるんじゃ無いかと、弱った心が癒されたいとしばらくそのまま花の優しさに浸る。