若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜

花の目が覚めないまま夜中になる。

用意された個室に移っても、俺は花の側から離れられず、ひたすら花の手を握り続けた。

夜には秘書から一報を聞いた家族も次々に病室に訪れた。

何で花ばかりが…と女将さんは泣き崩れ、 
康生はひたすら『花、起きろ!』と声をかけ続けた。

夜中近くになって来た親父は、俺の為に夕飯と着替えを渡してくれた。
そして俺にひたすら叱咤激励をして帰って行った。

家族とは有難いもので、こういう時こそ力をくれるのだと改めて知った。

身重の花を寝返りさせる為、1時間置きに体勢を変える仕事を買って出た。

足や手をさすってマッサージをしてみたり、刺激を与えて覚醒を促したりもしてみた。

だけど、それは俺自身が不安で、少しでも花に触れる口実が欲しかっただけだったかもしれない。

花の身体を横に動かす時、お腹の子がもこもこと動くのが分かり、しばらく赤ちゃんに語りかけていた。

花は決して1人じゃ無い。

赤ちゃんが俺が、そして家族が、周りのみんな、花が目覚めるのを待っている。