若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜

この目は本気だと永井は悟る。

「自分に出来るとお思いですか?」
まさか今、自分の力量を試されるとは思ってもいなかった永井は、戸惑いと緊張感で身が引き締まる思いがする。

この一橋柊生と言う人間性に惚れ、こんな人の元で働きたいと前職を辞めて誘いに乗った。
その社長の指名で講演会の代わりをと言うのだ。
自分に代わりが出来るのか⁉︎
永井は自問自答する。

奥様は社長の全てだとここ一年、隣で働いていてもよく分かった。

普段、いつも冷静で先まで見通し的確な指示を出す完璧主義な社長でも、奥様の事になると例外で途端に人間らしい面を見せる。

そんな所も彼の魅力だと思っていた。

だから、奥様の働く保育園から電話があった時、何か良く無い事が起きたと直感し胸騒ぎを覚えた。

そして今、

後は今後の打ち合わせをと、社長の指示を貰うため仕方無く病室に入ったのだ。

社長のプライベートを邪魔するつもりは無い。仕事の打ち合わせが終わればさっさと帰るつもりでいたのに…。