若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜

そこで秘書の永井が戸惑い気味にノックをして部屋に入って来る。

「今、保育園の先生方には帰って頂きました。…奥様の具合はどうですか?」
柊生の気持ちを慮って永井はそっと近付く。

「…分からない。花が目覚める事が全てだ。」
力無く言う柊生は痛々しいほど弱って見える。

「…そう、ですか。
とりあえず、明日のスケジュールは全てキャンセル、社長以外で対応出来そうなものは副社長に任せ、講演会については延期または講師を引き受けてくれる方を全力で探します。」 

何かの為に予め繋がっておいたコンサルティング会社に連絡をして、柊生の代わりをお願いするしか無いと、永井は思っている。 

「明日の公演はお前がやってくれ。」
突然、柊生からそう言われ永井は一瞬フリーズする。

「えっ……俺ですか⁉︎」
永井にとっては寝耳に水な話しで理解が追いつかない。

「そうだ。俺の代わりはお前しかい無いと思っている。俺に何かあった時にはよろしく頼むと言ったよな。」

永井は戸惑い記憶をたどる。
…確か前に社長から、俺に何があった時はお前に頼むと笑いながら言われたが…。

秘書である自分がサポートして、仕事が円滑に回るようにすると言う意味で受け止めていた。

「この数ヶ月、俺にいつも同行させその都度見てきたはずだ。見様見真似で構わない。やってみてくれないか?」

「やってみる…?エッ、講演をですか!?」
さすがの永井も動揺を隠せない。

「原稿はすでに頭に入っているだろ?
後はどれだけ落ち着いて出来るかにかかっている。永井なら出来ると確信している。」

立ち上がり柊生は永井と向き合う。