次の日、柊生は花と一緒に実家に行く。

母と義父が思っていた以上に大喜びして、夕飯は旅館で宴会のようにご馳走を並べてお祝いしてくれた。

「今夜はこの部屋で泊まって行ったら?
内風呂もあるし、旅行に来たみたいで楽しいでしょ。」
母である女将がそう言ってくれる。

「ありがとうございます。
なかなか花を旅行に連れて行ってあげられなかったので嬉しいです。」
柊生も自分の旅館に泊まる事は初めてらしく楽しそうにしている。

「実家が旅館ってこう言う時に便利だね。
旅行に来たつもりでのんびりさせてもらうね。」
花も嬉しくて、幸せで、体調も良いからいつもより食べ過ぎてしまった。
 

家族がそれぞれの持ち場に帰って行って2人っきり。

広い特別室は続き間で、和室が二間プラスベッドルームが一部屋付いた豪華な部屋だった。

貴賓室ともスイートルームとも呼ばれるこの部屋は、うちの旅館で1番高い部屋にあたる。

なので、意外と空きが多いらしい。

花は窓枠の縁に座り、眼下に広がる旅館が誇る庭園の景色を堪能する。

この高さから見下ろしたのは初めてで、見慣れた景色のはずなのに、とても新鮮で始めて来た場所のような錯覚さえも覚える。

所々に置かれた灯籠の柔らかな灯りが、池の庭に映し出されなんとも言えない、情緒溢れる景色が優しい時を刻む。

ポーッとしながら眺めていると、目の前に柊生が花と同じように縁に座る。

柊生はというと、景色よりも何よりも目の前の花が気になって目が離せないでいる。

今夜の花は、旅館で出された懐石料理をほぼ完食した。

最近はその半分も食べらないのに…急にあんなに食べて大丈夫なんだろうかと心配する。

昨日も悪阻で何回も吐いたと聞いていたから、胃も弱っているのではないかと心配して、先程フロントからもらってきた漢方薬を飲んでもらったところだ。

「花、あんなに食べて大丈夫か?
胃も弱ってるはずだし、少しベッドで横になった方が良い。」

花の頬をサラッと撫でながら、柊生の心配症は止まらない。