若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜

その後、花は何事もなかったように元気になった。

心配する男どもには気にもとめず、久しぶりに兄妹が集まって嬉しいとはしゃぎ、届けられたケータリングを3人で仲良くシェアしながら食べる。

「花、報告も兼ねてしばらく実家に帰ってみるか?」
夕食を終え、食器を洗いながら柊生は問う。

今はそれが1番良い方法では無いかと花に改めて提案した。

「うーん。報告には行かなきゃいけないと思うけど…。私、ずっとここがいい。
柊君が心配なら…実家に帰るけど…。」

分かりやすくシュンとしてしまう花を目の前にすると、柊生自身も心が揺らぐ。

「花がここに居たいならそれで良い。
だけど、1人でいる時間が長いと心配だ。
実家には女将さんも居るし何かと花も安心だと思う。」
柊生は言葉を選びながら花に気持ちを伝える。


「本当に兄貴が居ると平気なんだな。
この際、兄貴が育休取ってずっと一緒に居れば?」
そんな2人を見ながら康生はソファで寛ぎ、他人事みたいにそう言ってくる。

「それが出来れば1番いいが…
さすがに立ち上げたばかりの会社だ、俺が居ないと会社を維持出来なくなる。」

いくら5人ばかりの少ない会社だとは言え、それなりに社員の家族も背負っている。
簡単に放って置く事なんて出来ない。

ただ、この先会社を大きくしていくならば、自分の持っているノウハウを伝え、育成し俺が居なくても会社が成り立つ様にしなければいけないだろうとは思う。

「仕事は少しずつセーブするつもりだけど…。」
柊生は言葉を濁す。

「何言ってるの?ダメだよ。
私なんかの為に会社の人に迷惑かける訳にはいかないよ。これからだって時なのに。
康君変な事言わないで。」
花は怒り、怒りの矛先を康生に向ける。

「なんだよ。軽く言ってみただけだろ。
俺だって無理なのは分かってる。
だけど、花を1人で残して行くのは俺も心配なんだよ。」
康生は花を見つめため息を吐く。

「もう、2人して…。
子供じゃ無いんだから大丈夫だよ。何かあったらちゃんと連絡するし、病院も行くよ。」

だけど、花はギリギリまで1人でなんとかしようとする性格だ。
だから心配でどうしても周りは過保護になってしまう。

「分かった。 
とりあえず、明日2人で実家に行こう。後で俺から電話しておくから。」
柊生もこれ以上は言えないと話しを止める。

「まぁ、俺が勝手に決める訳にも行かないよな。実家に帰るかどうかは花が決めてくれれば良いよ。」

そう言って康生は帰って行った。