若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜

「柊君…汗すごいね。クーラー寒く無い?
もしかして駅から走って来てくれたの?」

花はそう言って柊生の額の汗をタオルで優しく拭う。

「ああ、ごめん…汗臭いよな。」
柊生は慌てて飛び退いて花から距離を取る。

「大丈夫だよ?柊生の匂いはむしろ落ち着くから。」
ふふっと笑ってベッドから立ち上がる花を柊生は手助けする。

「大丈夫か?
まだ寝ててくれて構わない。
夕飯もそろそろ届く筈だから。」

「もう大丈夫。
悪阻は赤ちゃんがちゃんと育ってる証拠だって先生も言ってたから。
康君にも心配かけちゃった…。」

そう言って花はリビングに向かって寝室を後にする。

柊生はその後ろ姿を見つめながらため息を吐く。

どうすべきか…

俺と居る時は悪阻が治るのなら体調的には良いかもしれないが…心理的には辛すぎる。

俺の前では花は心から寛げないと言う事だ。

柊生はそう思うと、心に刺さった抜けない棘がチクチクと疼くのを感じる。