若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜

夕方5時前。
玄関でガチガチッと音がしたかと思うと、バンとドアが勢いよく開き柊生が走り込んでくる。

「花⁉︎」
リビングに慌てて飛び込んだ柊生は、康生と目が合い訝しげな顔で聞く。

「花はどこだ?」

「寝室で横になってる。
帰って来てから3回はトイレで吐いたみたいだ。30分前くらいから出て来ないから、寝てるかもしれない。」
康生は淡々と事の経過を伝える。

柊生を見れば上着を片手に、ワイシャツの袖をたくし上げ、額からは汗が流れ落ちている。

「はっ⁉︎駅から走って来たのか?」

「タクシー待ってる方が遅くなると思ったからな。花の側にいてくれて、ありがとう。」
柊生は冷静にそれだけ言って、寝室に入って行ってしまう。

康生は夫婦の会話に立ち入る事も出来ず、かと言って帰る訳にも行かず、所在無さげにただ佇むしか無かった。