彼は僕の力の入らない両手に、僕を刺したのと同じ包丁を握らせ、自分の方に走らせる。

 そうしてそのまま、銀色の光は彼の胸元を突き刺した。

 ツゥーと、彼からも血が流れ落ち始める。

 
 やがて、身体に力が入らなくなったのか、彼は僕の隣に倒れ込んできた。ベッドの白いシーツは僕ら2人の血で赤黒く染まっていく。

 
 その様子を見ながら「僕らは天国か地獄、どちらに落とされるのだろう」とか、そんなどうでもいいことを頭の隅でぼんやりと思った。


「い、ま、から…ふたり、で、しぬ、んだね…」

「あぁ…これ、で、永遠に、いっしょ、だ…っ!」


 赤い血と共に、命が零れ落ちてゆく。
 一滴一滴、確実に。

 温もりのある血液とは裏腹に、僕らの体温は下がり、どんどん冷たくなっていくのを感じる。

 瞼は重くなり、目を開けていることがつらくなってきた。

 あぁ、もう限界か。


「…も、う…いし、き、たもた、ない…。ご、めん…さき、いって、まっ、てるか、ら……じゃ、ね、木蔦(きづた)

「俺、も…すぐ、逝くから…。何度で、も…俺は、きみ、を見つけ、る…から。…また、な…絵梨花(えりか)


 その言葉を最期に、瞼は下がりきり、僕の意識は暗転した。
 愛しい彼─木蔦の腕の中で、永遠に…。