冬休みが終わり、始業式の日程が終わると、3年生の次の登校日は何故か2月14日。

『休まないでくださいね』

 美香のそんな手紙が家に届いていた。

 登校していなくても、週に1度は手紙のやりとりが続いていた。

 もちろん、こんな日に休む理由などない。

「おはようございます」

「おはよう」

 久しぶりの再会で、すぐに気が付いたことがあった。

「美香、少し背が伸びたか?」

 もともと、中学生になってから、背が伸びることを想定して、制服も大きめに作ってあるから、スカートの丈も膝下に来ていた。

それが、いつの間にか膝が見えるようになっていたのだが……。

「残念ですけど気のせいです。そんなに急には伸びませんよ」

 何のことはない。スカートの上の部分を捲って、ベルトで止めてあって、そのぶん印象が変わって見えているだけだった。

「でも、ちゃんと気づいてくれたんですね。次に会うときは、本当にもう少し背が伸びていてくれるといいんですけど」

 実質、俺たちがこうやって会えるのも今日が最後だ。卒業式は3月1日。この日は他の生徒たちは休みなので、当日に会うことも出来ない。

「あ、今朝渡し忘れました。今日はバレンタインでしたよね。買ったものでごめんなさい」

「ありがとう。気持ちがあれば嬉しいよ」

 帰り道、少しずつ日が延びてきて、夕焼け空が戻ってきたいつもの道を二人でゆっくり歩いた。

「美香、いつもありがとうな。高校生活の最後の半年は本当に楽しかったよ」

「少しでもお役に立ててよかったです。これから、寂しいけど、私もがんばります。先輩もがんばってくださいね」

 いつもなら、『また明日』と手を振って分かれるのに、今日はその瞬間をいつまでも引き延ばしたかった。

「そうだ、先輩。先輩のものってなにか貰えませんか?」

「いわゆる第2ボタンってやつか?」

「はい」

 うちの学校はブレザーなので、詰め襟制服のようにボタンの数はないが……。

「分かった。じゃぁこのネクタイをあげる。美香が高校になれば女子もネクタイで同じものになるから、そのときにでも使ってくれ」

「いいんですか?」

「持って帰っても使い道ないしさ。名札とかもあげるよ」

「ありがとうございます。大切にします」

「ちゃんと、迎えにいくまで持ってろよ?」

「はい」

 卒業式のあとに、彼女の机の中に入れておくことを約束した。

「今度からは、ちゃんとデートですね」

「そうだな。なんかそっちの方が緊張しちゃいそうだ」

「それじゃぁ……、また……」

 時計を見ると、だいぶ予定をオーバーしていた。あまり遅くなると、美香の家も厳しいそうで、理由を考えるのも大変になってしまう。

「おう。それじゃぁ、またな」

 そして、それが、夢の終わりだということに、俺はまだ気づいていなかった。




 卒業式の日、人もまばらになった放課後、俺は一人で中学棟に向かった。

 約束のものを届けるためだ。教室に鍵はかかっておらず、俺は教えてもらっていた彼女の机にやってきた。

 先日の約束どおり、ネクタイと名札を外して机の中に入れようとしたとき、手紙が入っていることに気づいた。

『先輩、卒業おめでとうございます。いただいたものは大事にします。ありがとうございました』

 その手紙を受け取って、最後の用を済ませて俺は学校を後にした。