可愛いピンクのドレスに身を包んだタニアがトコトコっとやってきて、ニコッと笑いながら指輪を載せたトレーを差し出した。

「どうじょ」

 サラサラとしたボブの髪型にプニプニのほっぺたが実に可愛らしい。

「ありがとう」「いい子ね」

 二人はリングを取ると、互いの薬指にリングをはめあい、ほほ笑みあう。

「それでは誓いのキスを捧げよ」

 いよいよクライマックス。女神は優しく微笑みながら二人を向かい合わせる。

 二人はお互いを見つめ合う。

 初めて出会った時のこと、ドラゴンを倒した時、このセントラルを作り花の都を実現した時、そして、死の縁から救い出して結ばれた時のこと、その一つ一つを思い出しながら視線を絡ませる。

 それらの想い出はかけがえのない宝となって二人をしっかりと結びつけていく。心から湧き上がる喜びに照らされ、二人の目には涙が煌めいた。

 どちらからともなく恋人つなぎした手をそっと引き寄せ、二人は唇を重ねる。

 メイドと令嬢として出会った二人は友達になり、命がけの試練を経て今ここに人生を共有するパートナーとして正式に結ばれたのだった。

 パン! パン!

 たくさんの魔法の花火が上空で破裂し、赤、青、緑と鮮やかに輝く光の微粒子がセントラルに降り注ぐ。

 うぉぉぉぉぉ!

 数万人の観客は大歓声で二人の愛を祝い、盛大な拍手の渦がセントラルに響き渡った。

 こうして、女神によって執り行われた伝説に残る結婚式は無事終了し、二人は正式なパートナーとして全世界に認められることとなる。

 もちろん中には同性愛を認めたくない者もいたが、女神によって認められた結婚を否定すれば異端となってしまうため、新たな時代を受け入れざるを得なくなった。


         ◇


 それから数年後、二人のスイートホームに非常警報が鳴り響いた――――。

 ヴィーン! ヴィーン!

「おわぁ! 敵襲だ!」

 朝食をとっていたオディールはトーストの残りを強引に口に詰め込み、ミルクで流し込む。

 その警報は神殿からの呼び出し。オディールは女神の所で世界の管理を手伝うようになっていたのだ。

「最近多いわねぇ……」

 ミラーナは大きく膨らんだ自分のお腹をやさしくなでながら、不安そうにオディールを見る。そう、ミラーナは二人の遺伝子を使った子供を身ごもっていたのだ。

「蜘蛛男の分身がまだ残ってるんだよね。あともう少しだと思うんだけど……」

「気を付けて……」

 ミラーナは心配そうに眉を寄せ、オディールに両手を伸ばす。

 オディールはニコッと笑うと優しくハグをした。

「大丈夫だって! レヴィアも手つだってくれるしさ。それにこの子を抱くまでは死ねないよ」

 オディールはミラーナのお腹をなでる。すると、ポコッと赤ちゃんが蹴ってきた。

「あっ、動いた!」

「うふふ、最近活発なのよ。もういつ出てきてもおかしくないわ」

 ミラーナは愛おしそうに両手でお腹をなでる。

「楽しみだね」

「そうね、でも、次はオディが産んでよ?」

 ミラーナは上目づかいで口をとがらせ、くぎを刺す。

「わ、分かってるよぉ……。はははは……。じゃあ、行ってきます!」

 オディールは指先で空間をツーっと裂くと逃げるように中へ入っていった。


         ◇


「遅いぞ!」

 神殿の作戦室ではレヴィアが映像に囲まれながら眉をひそめ、腕を組んでいた。

「ごめん、ごめん。どんな感じ?」

「ヤバいぞ。蜘蛛男が海王星のサーバー施設に出現。爆発物を仕掛けて地球を一つよこせと要求しておるんじゃ」

「え? コンピューターの中の世界から出てきちゃったの?」

「そうなんじゃ、どうやったんじゃろう? こんなの我らにはお手上げじゃ。女神様にお願いするしかないじゃろうな……」

 コンピューターを破壊されたら世界そのものが消滅してしまう。レヴィアは最悪の事態を想定し、冷汗を浮かべた。

 しかし、オディールはニヤッと笑うとサムアップをする。

「あはは、大丈夫だって。僕に任せて!」

 そう言うとオディールは目をつぶり、深呼吸を始める。

「だ、大丈夫ってどうするん……、えっ!?」

 オディールはすうっと消えていってしまった。


       ◇


 冷たい海王星の奥深く、氷点下二百度のダイヤモンドの吹雪の吹き荒れる中に一キロメートルほどの巨大な漆黒の構造物が揺れている。表面を覆う幾何学模様の継ぎ目からは神秘的な青い光が漏れ、上部からはモコモコと白い煙を噴き上げている。それは地球を創出しているコンピューターサーバー施設【ジグラート】だった。

 ジグラートはまるで貨物列車のように次々と連なり、全体で一万個くらい運用されている。それらは太陽のそばで生みだした膨大な電力を使って一万個の地球を実現していた。

 そのうちの一つ、オディールの住む地球を創り出しているジグラート内部に蜘蛛男は現われたのだ。

 しかし、蜘蛛男はコンピューターによって創出されたコンピューター内の存在である。本来、コンピューターを出ることはできない。それでも蜘蛛男は金属でできた作業用のアンドロイドの身体をどこからか手に入れてジグラート内に出現したのだった。

「いいか! 脅しじゃないぞ! 自由にできる地球を提供しないなら本当に吹き飛ばすからな!」

 円筒形のコンピューターサーバーがずらりと並ぶ通路で、蜘蛛男は爆発物の起動スイッチを手にして監視カメラに向けて叫んだ。サーバーが破壊されれば街も人も地球上にある全ての物が一瞬で消えてしまう。男は究極の人質を取って立てこもっているのだ。