オディールは剣を高々と掲げると堂々とした声で叫ぶ。

「公爵家の財産は没収! 領地は我がセント・フローレスティーナが併合する!」

「おぉ!」「つ、ついに……」

 自警団のみんなはオディールがアグレッシブな方針を決意したことに驚き、どよめきが広がる。圧倒的な力と先進的な発想を持ちながら砂漠に籠り切っていたことにみんな違和感を持っていたのだった。

 くぅぅぅぅ……。

 盛り上がる自警団たちに反し、公爵は無念そうに声を漏らす。

「父さん、泣くことなんてないわ、喜んで。うちの領地になったからには豊かになるんだから」

 オディールはニヤッと笑いながら公爵の肩を叩いた。

「どんなに豊かになろうが、奴隷じゃ仕方ないだろ!」

「しっかりと働いたら奴隷からは解放してあげるわよ」

 ニヤッと笑うオディール。

「……。な、何をやらせるつもりだ?」

 公爵は少しおびえた様子を見せながらオディールを見上げた。

「ヘーリング王国をぶっ潰す! この大陸に平和を取り戻すのよ」

 オディールはグッとこぶしを高く掲げ、晴れやかな顔で自警団のみんなを見渡す。

「やろう!」「やったぁ!」

 自警団は盛り上がり、みんなもこぶしを高く掲げた。

「は、反逆じゃないか!」

 公爵は真っ赤な顔で怒鳴る。

 オディールはムッとした様子で剣を再び公爵に向ける。

「奴隷は口答えしない!」

 くぅ……。

 公爵はガクッと肩を落とす。そこにはいつもの威厳のある姿はなかった。

 公爵家は代々王家と共に歩んできた。幾多の困難も公爵家が支えることで王国は長き繁栄の時代を築き、公爵家も恩恵を得てきていた。その伝統を自ら崩すことに公爵はひどく抵抗がある。しかし、奴隷となればもう従うしかなかった。

「ケーニッヒ、悪いけど手伝ってくれる? 国王を捕縛するわよ」

 オディールは決意のこもった目でケーニッヒを見る。崩壊していたセントラルの映像が目に焼き付いているオディールにはもうためらうことなどなかった。やらねばやられるのだ。ミラーナと作り上げたこの花の都を脅かす者は根絶やしにするしかない。

「御意! 憂いは残してはなりませんからな」


        ◇


 翌日、王都の上空に飛来する巨大な影――――。

 漆黒の鱗に覆われた巨大な生き物、ドラゴンは黄金色の輝きをまといながら王宮を目指し急降下していく。

 ギュオォォォォ!

 重低音の咆哮が王都一帯に響き渡り、街中騒然となった。

「な、なんだあれは!?」「女の子が乗ってるぞ!」

 ドラゴンの背中には青い戦闘服を来た少女が剣を高々と掲げ、金髪を風になびかせている。ドラゴンは国造りの伝説に出てくるレジェンド、それが少女を乗せて王宮を目指しているのだ。きっと時代が大きく変わるに違いない。

 その姿を見上げながら人々はこれからとんでもない事が起こる予感に震えた。

 直後、上空に暗雲が立ち込め、雷鳴と共に巨大な雹が宮殿に降り注いでいく。

 宮殿の魔術師たちが慌ててドーム状の結界を張るものの、灼熱のドラゴンブレスがあっさりと焼き払ってしまう。雹による空襲は宮殿の屋根を次々と破壊し、警備兵たちを逃げ惑わせた。

 そこに公爵の部隊と剣聖が突入し次々と制圧していく。騎士団は慌てて宮殿防衛に走ったがドラゴンブレスの圧倒的な猛威の前に近づけず、ただ、見守るばかりだった。

 へーリング国王は雹でグチャグチャになってしまった宮殿から命からがら逃げだしてきたものの、ドラゴンと剣聖ににらまれ、もはやこれまでとひざから崩れ、ガックリとこうべを垂らす。

 ここまでものの数分、まさに電撃的な王都陥落だった。

「エイ、エイ、オー!!」

 突入部隊はこぶしを突き上げ、(とき)の声が王都に響き渡った。

 オディールはうなだれる国王の前に出ると、刀身をギラリと光らせながら国王に向ける。

「チェックメイト! うちにちょっかいを出した報いを受けてもらうよ?」

 ニヤッと笑うオディール。ミラーナが生死の境をさまよったのはコイツのせいである。二度とそんなことができないようにしてやる以外ない。

「わ、悪かった。何でもやろう! 金貨でも宝石でも爵位でも好きな物をとらそう! どうじゃ?」

 国王は冷や汗を流しながら必死に喚いた。

「馬鹿ねぇ。王家の全財産は没収。貴族制は解体。あんたは奴隷よ?」

 オディールは状況を分かってない国王に思わず苦笑する。

「ど、奴隷!?」

 国王は仰天して手を震わせた。

「それとも……、今死ぬ?」

 オディールはニヤッと笑うと、剣を上段に高く振りかぶる。

 それを見たケーニッヒは、国王の腕をとって後ろ手に回してキメ、首をオディールの前に差し出した。

「うぎゃぁ! ま、待て! 待ってくれぃ! お主を襲ったのは公爵が勝手にやったこと。わしは無関係なんじゃ!」

 往生際の悪い国王にオディールはウンザリする。こんなのが国のトップに居続けているから民衆は苦しむばかりなのだ。

「嘘つきは死刑。もう救いようがないわ。死んで?」

「うわぁぁぁ! わしが悪かった! 本当は国のため、国民のためだったんじゃぁぁぁ! 何でもする。だから命だけは……」

 自分の保身を『国民のため』とすり替える国王。その醜い姿にオディールは怒りすら感じた。

「僕、ズルいオッサン嫌いなの。セイッ!」

 オディールは剣を持ち直すと振り下ろし、剣身の側面でパーン! と国王の頭をどついた。

 ふぐぅ……。

 国王は首を斬られたと錯覚し、泡を吹きながら気を失ってしまう。

 そんな国王の無様な姿を遠巻きに見ていたへーリング国王の兵士たちは、失意のあまり皆がっくりと肩を落とした。国王は奴隷にされ、ドラゴンと剣聖を敵に回してしまっては、もはや打つ手はなく、観念せざるを得ない。

 そんな連中をしり目に、オディールはセント・フローレスティーナの旗を持って宮殿のがれきをよじ登っていく。そして、頂上に巨大なセント・フローレスティーナの旗を立てた。

 小高い丘の上の宮殿に花模様をあしらった上品な旗がはためく。それはまさに新時代の到来を象徴した。

「うぉーー!」「やったぁ!」

 突入部隊の歓声が辺りを包む。

「みんなー! ありがとーー!!」

 オディールは満面に笑みを浮かべながら大きく手を振った。

「オディール様バンザーイ!」

 トニオが叫ぶと、みんな手を上げてそれに続く。

 バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!

 爽やかな風に大きくはためく旗の下で、万歳の声が響き渡る。みんな新たな時代の到来に胸躍り、喜びを爆発させた。

 街の人たちもその様子にヘーリング王家の終了を知り、大騒ぎとなる。ドラゴンに乗った少女があっという間に王宮を制圧し、貴族の圧政から市民を解放したことはまさに伝説的な出来事だった。

 へーリング国王を叩き起こして無条件降伏の書面にサインさせ、事務方の協議に移るとオディールは旗を持ってドラゴンに乗り、凱旋を始める。これから始まる自由で開かれたセント・フローレスティーナの統治を街の人に受け入れてもらうことは大切な事だった。

 ヴォルフラムも同乗し、用意してきた多量の花びらを街に振りまく。

 王都の上空をゆったりとドラゴンは旋回していった。色とりどりの花びらの舞う中、セント・フローレスティーナの旗を振る少女。それは理不尽に貴族に虐げられてきた民衆には神からの使いに見えた。

 街のみんなは大きな歓声をあげて歓迎し、大きく手を振る。民衆は熱狂的にオディールを支持し、ここに新たな王都の歴史が始まることになった。

 こうしてオディールと王家、公爵家との確執は伝説を築きながらオディールの圧倒的な勝利で幕をおろしたのだった。


        ◇


 カラーン! カラーン!

 さわやかな青空の元、セントラルに鐘の音が響き渡った。

 今日はオディールとミラーナの結婚式。セント・フローレスティーナを挙げて二人の結婚を祝福することになったのだ。

「お集まりの皆さん! いよいよこれより我が領主オディール殿と、ミラーナ嬢の結婚式を開催いたしまーす!」

 ステージでタキシード姿のローレンスは、マイクを片手に笑顔で叫ぶ。

 うわぁーー! おぉぉぉーー!

 セントラルに集まった数万人の住民たちは各階のテラスをびっしりと埋め尽くし、地響きのような拍手で揺れる。

 バサッバサッと力強くはばたく音が辺りに響き渡り、セントラルに落ちた巨大な影がスーッと動いていく。

 おぉぉぉ……。

 観客席にどよめきが広がる。

 大空に現れた漆黒のドラゴンは、大きな翼を広げ、美しく輝く光に覆われながら上空を通過していく。

 ドラゴンは一旦ロッソの方で優雅に旋回すると、ステージめがけて徐々に高度を下げていく。その頭部には純白のウェディングドレスに包まれた二人の女性、オディールとミラーナが乗っていた。

 二人は、喜びに満ちた笑顔で手を振り、熱狂的な観客の歓声に応える。

 やがて、レヴィアは荒々しく翼をはばたかせながらステージに降り立った。ズズーンという轟音が響き渡り、セントラルはその衝撃に揺れ動く。

 そして咆哮を一発。

 セントラルに響き渡る恐ろし気な重低音の咆哮に、観衆たちは思わず息をのんだ。

 頭をゆっくりと下ろしたレヴィアから、ステージへと降りてくる二人。

 うわぁぁぁ!

 ひときわ高い歓声が今日の二人の主役を出迎える。

 その時だった。

 ドーン!

 ロッソの山頂で大爆発が起こったかと思うと、数百メートルはあろうかという巨大な木の芽がニョキっと顔を出した。

 えっ……? はぁ……? あれは一体……。

 一体何が起こったのか分からない観客たちがどよめく。

 やがて木の芽はすくすくと空へ向かって伸び始める。その速度はどんどんと上がり、ゴゴゴゴという地響きを伴って、最後にはまるでロケットが宇宙へと飛んで行くように目にもとまらない速さで空を目指した。