「な、仲間……? お主らは何のパーティなんじゃ?」

 レヴィアは眉間にしわを寄せながら三人を見回し、怪訝(けげん)そうに聞く。

「僕らは世界中を旅行する旅行パーティ。楽しいことをする仲間なんだ」

 オディールはそう言ってミラーナとヴォルフラムを引き寄せ、腰に手を回しながら嬉しそうに笑った。

「はぁ……?」

「何? その反応……。まぁいいや。じゃ、ちょっと僕らを乗せてひとっ飛び、大陸の果てまで飛んでよ!」

 オディールは無邪気に依頼する。

「大陸の果てって……、どこ行くつもりじゃ」

「うーんと、この先って何があるの?」

 オディールは広大な麦畑の向こうを指さす。

「延々と砂漠じゃよ。ずーっと砂漠」

「砂漠の向こうは?」

「んーーーー、何があったかのう? 最後は森があって海じゃったような……」

「おぉ! 海! じゃ、海までひとっ飛びヨロシク!」

 オディールは上機嫌にポンポンとレヴィアの肩を叩いた。

「う、海まで……本気か……?」

 レヴィアは渋い顔をする。何も考えて無さそうなこのお気楽少女の言うことなど聞いていたら、大変な目に遭いそうである。

「本気も本気、レヴィアならひとっ飛びでしょ?」

 レヴィアは大きなため息をつくと、ミラーナとヴォルフラムの方を見る。

「お主らはそれでええのか?」

「私、海見たことないの。見てみたいわ!」

 ミラーナは、嬉しそうに両手を組みながら上機嫌に答える。

 ヴォルフラムはやや困惑気味に、小首をかしげながら『二人にお任せ』という感じで二人の方を手のひらで指した。

 レヴィアは目をつぶって腕を組む。

 ドラゴンを圧倒した奇妙なパーティ、その目的は観光だと言う。この能天気な小娘が(しゃく)に障るが、無茶な冒険をするわけでもなし、暇つぶしにはいいかもしれない。思えば数百年、ずっと孤独を満喫してきたがさすがにそろそろ飽きてきていたというのもある。

 レヴィアは片目を開いてオディールの碧い瞳を見つめた。

 それに、自分を圧倒したこの小娘の恐るべき力。その気になれば世界征服すら可能であろうその脅威的な力を使って、彼女がこれから何をするのかも気になった。

「まぁ、ええじゃろ。しばらくつきあってやろう」

 レヴィアはニヤッと笑うとオディールに右手を差し出す。

「ふふっ、よろしくね!」

 オディールは満面に笑みを浮かべ、ギュッと握手をした。

 こうして一行は思いがけず伝説の生き物、ドラゴンを仲間に加えることに成功する。空を飛べる仲間を得たことは、旅を大いに楽にしてくれるに違いない。

 オディールは楽しい予感に心が舞い上がり、ピョンと跳び上がると叫んだ。

「イェーイ! 歓迎のダーンス!」

 喜びに身を任せて、手を思い切り振り上げ、振り下ろし、下手ながらも幸せを全身で表現するダンスを披露する。

 きゃははは!

 楽しそうに笑うオディール。それは不格好でも見る者に楽しさが伝わってくるダンスだった。

「姐さん、楽しそうですねぇ……」

 ヴォルフラムは嬉しそうにそう言うと、オディールの真似をして踊り始める。

「なんじゃ、そりゃぁ」

 呆れるレヴィアに、オディールは背後から両手を取った。

「ほらほら、レヴィちゃんも踊った踊った!」

 オディールはレヴィアの手を右右、左左、と伸ばさせると、くるりと回した。

「うわぁぁ」

「はい、自分で踊って!」

 オディールは、そう言うとヴォルフラムの後ろについて踊る。

「しょうがないのう……。歓迎の舞じゃなかったんかい……」

 レヴィアはそう言いながらも楽しそうにオディールに続いた。

「じゃあ、私も……」

 ミラーナもレヴィアに続く。

 こうして一行は盆踊りのように輪になって思い思いに楽しく踊りながら、仲間を得た喜びをかみしめ、まだ見ぬ大陸の果てを思い描いたのだった。


       ◇


「お主ら、しっかりつかまっとけよ!」

 ドラゴン姿に戻ったレヴィアは三人を後頭部に乗せ、巨大な翼を雄大に広げてグンと天高くそびえたてた。その、翼の骨と広大な皮膜は、コウモリにも似た生々しい生き物の造形を感じさせるが、長さは十数メートル。まるで巨大な帆船のようであった。

 その巨大な翼をバサッバサッとはばたかせると、レヴィアは太い後ろ足でグンと地面を蹴る。

 うわぁ! きゃぁ! うぉぉ!

 ものすごい加速で思わず振り落とされそうになる三人。

 まるで嵐を巻き起こすかのように力強く羽ばたくドラゴンは、あっという間に高く舞い上がる。

 チラッと下を見て、唖然としている商店のおばあちゃんを見つけたオディールは、大きく手を振り、嬉しそうに叫んだ。

「いってきまーす! きゃははは!」

 風をつかみ、力強く、空高く駆け上がるドラゴン。村の建物は見る間に小さくなって、手のひらサイズのジオラマ模型のようになっていく。

「すごい! すごーい!」

 はしゃぐオディールだったが、横を見るとミラーナもヴォルフラムも鱗のトゲにしがみついて、目をギュッとつぶって耐えている。

「なーにやってんの! ほら見て、いい景色だよ!」

 オディールはミラーナの背中をポンポンと叩いた。

 恐る恐る目を開けたミラーナは、一日がかりで超えてきた山脈がもう遥か下にに見えるのに驚き、唖然とする。

 さらに、山脈の向こう、ずっと奥には、傾いてきた太陽のオレンジ色の光を浴びながら円形の構造物が小さく見えた。

「えっ? あれって……何かしら……?」

 ミラーナが不思議そうに聞く。

「おぉ、王都だね。まだ見えるんだ。ちっちゃいねぇ。きゃははは!」

 オディールは笑い飛ばした。

「王都ってあんなに小さいの!?」

 驚きに息を呑むミラーナ。生まれてこの方ずっと王都の中にいて、王都が世界の全てだったミラーナにとって、その光景は一瞬で世界観をひっくり返されるほどの衝撃だった。

 口をポカンとあけて呆然としているミラーナの手を、オディールはギュッと握り、ブラウンの瞳をのぞきこむ。

「これが世界だよ。来て良かったでしょ?」

 風に乱れる美しい黒髪を片手でなだめつつ、圧倒されるミラーナは静かに首を振る。

「これが……、世界なのね……。ありがとう、オディ」

 ミラーナは世界の壮大さに心を打たれ、オディールの手を強く握り返した。