そうだ、引っ越しをしよう。
 そう思ったのは、クーを追い出した夜のこと。
 エリナは、名案を思い付いた、とでもいうように、手のひらをこぶしでぽんと叩いた。
 そうだ、引っ越してしまおう。

 場所がわからなくなれば、クーも来ないし、クーに対して申し訳ないと思うこともなくなるだろう。そう、引っ越してしまったのならしかたない作戦だ。
 たとえクーにとって淡い初恋であろうが初恋でなかろうが、エリナがそこに居なければ実もなにもないのである。
 そうと決まれば今日が吉日だ。

 エリナはお気に入りの服をまとめ、食器や家具を梱包し始めた。
 当面の仮宿は郊外の知り合いの経営する宿屋を使って、そこでゆっくり次の住処を決めればいい。
 エリナはそう思って、一通りの荷物を片付けてしまった。

 エリナの荷物はけして多くはない。裕福でないゆえだが、今回はそれがよかった。
 ふう、と汗をぬぐったエリナは、片づけたばかりのベッドに座り込む。シーツをはがしたベッドは固いけれど、開け放した窓から入ってくる風が心地よいために、すぐに睡魔に襲われた。