ことこととシチューを煮込む音がする。
 ふうわり香るミルクの香りが鼻腔をくすぐって心地よい。

 こんな時でなければパンに浸してすぐにでも口に入れたいほどの良い出来だ。
 ……が。

 エリナは、今まさに自分の背後に張り付くようにして煮込まれる鍋の中身を見つめている青年にげんなりと額を押さえた。

 エリナが引きずって帰ってきた青年は、はじめこそ疲れ切ったように倒れていたのだが、エリナが料理をし始めると、何かの匂いを嗅ぎつけたのかぱちりと目を覚ました。

 覗き込んだ青年の、開かれた目の瞳孔は縦に長く、彼が竜種であることを告げてくる。

 今生では竜種にかかわらないと決めていたのにすぐこれだ。
 エリナは自分が悪い星のもとに生まれているのではないだろうかと本気で思った。
 ……それにしても。