怪我でもされていたらトラブルのもとだからだ。
 薄情かもしれないが、厄介ごとには首をつっこまないのが処世術である。だってエリナは平凡に生きていきたい。
 エリナはそろりそろりと踵を返し、見なかったことにしようとして――……。

 ぐきゅうるるるる。

 と、なんともまあ、間抜け極まりない腹の虫の音に、ぴたりとその動きを止め――しばしの逡巡のあと、はああ、とため息をついて、行き倒れた男の足をむんずとつかんだ。
 そして掴んだその男の足を引きずり、がんがんと階段に男の顔をぶつけながら、意外と重かった男の体重に苦心しつつ、ほうほうのていで自分の部屋へと連れ帰ったのであった。