「今日は景気よくシチューにしましょ!ミルクとバターをたっぷり使ってやるんだから!」

 平民のほうが貴族よりいい暮らしをしている、なんてこの国では常識だろう。……人間貴族の間では。
 今生は人間貴族に生まれなくて、本当によかった!と思いながら、エリナは安いアパートのベランダから家に引っこみ、財布を握り締めて町へ駆け出した。
 太陽はまだ高い。きっと今日はいい日になる。だって、毎日こんなに自由なのだから!

 ……そう、思っていたのだけれど。

「なにこれ」

 シチューをかき混ぜているとき、家の外で物音が聞こえた。
 具体的には、エリーの住む二階のベランダの下あたりで。平和なこのご時世ではあるが、下町でも貧富の差がないわけではなく、行き倒れも少なくない。たまにこの辺をうろつくものにはガラの悪いのもいるが、恵まれない孤児だってまだまだいるのだ。