――私はただの人間だから、竜種に比べたらなにもかもが乏しい。
いつか、クリスだってエリスティナを置いて旅立つときがくる。
竜種は本能で番を求めるものだ。エリスティナはこの森から出る気もないし、出ることもできないけれど、クリスはきっと、この森の外へ行ける。
劣等個体だと捨てられたのに、クリスはそれを感じさせないくらいに強く、賢かった。
まだ少年竜のくせに、エリスティナを十分に養えるくらい、狩りの腕だって立つのだ。
不帰の森に住む動物を狩るなんて、並大抵の実力者では無理なのに。
エリスティナはそれがわかっているから、クリスからもたらされる親愛の情を、感謝とともに受け取っていた。
いつか失うことがわかっているだけ幸せだ。最初から期待せずに済むのだから。
……今をありがたく享受できるのだから。



