裏口から出るとそこには小さな畑があり、種らしきものが保管されている。
 それにはエリスティナがわかる程度の簡易な魔術で「劣化防止」の処理が施されていた。つまり、この畑は使える、ということだ。

「竜王とその番にしか使えないって聞いてたけど、そんなことないじゃない。よかった……」

 急に安心して涙ぐんだエリスティナは、胸に抱いたままの卵をそっと手に持ち、頬ずりをした。

「あなたがいるから無事にここまでこれたのかしらね。これなら十分にあなたを育ててあげられそうよ」

 劣等個体の、捨てられた卵。それでもかまわない。愛させてくれるなら十分だ。
 誰かを愛することが許されない家に生まれたエリスティナは、この卵にようやっとよりどころを見つけられた。

 両の手で包んだ卵から伝わる鼓動、ぬくもりが心地いい。
 エリスティナは大切に卵を胸のポケットにしまい。さてと、と顔を上げた。

「とにもかくにも、まずは掃除からね!頑張るわよ!」

 森の太陽が、一番上まで登っている。
 エリスティナは、ようやくまともに息ができた心地で、笑った。