不帰の森。それは、ブルーム王国の東に位置する深く暗い森の名だ。

 かつての竜種が有り余る魔力を捨てたために、特異かつ危険な生態系をもつその森は、一歩進むごとに形を変える。命あって帰ってきたものは例外を除いてひとりもおらず、そのため不帰の森、と呼ばれている。

 例外――それは、竜王だ。
 最強種である竜種の中でも、竜王に天から与えられる刻印は、かつてこの森を形成したのが竜王ということで、この森の中でも無事に過ごせるという力を持っている。

 森が竜王の味方をするのだという。眉唾物の話だが、事実、かつてこの森に入ったリーハは、カヤのために珍しい果実をもぎ取ってきても無事だった。

「という話を忘れているのではないかしら、あのおたんこなす」

 エリスティナは悪態をついて、足に絡みついてきた蔦をぶちぶちと引きちぎった。
 腐っても人間貴族だ。この程度の修羅場は飽きるほどくぐっている。

 食べものがなく、木の根をかじり草の汁を啜っていた自分よりずいぶんましである。少なくとも、食に関しては。
 幸い、この森はエリスティナを襲おうとするけれど、食べ物はなるほどリーハの言った通り豊富だった。