エリナはクリスを見つめた。
 どうしようもない気持ちだった。
 だってずっと帰りたかったのだ。ずっと、当たり前みたいに「ただいま」と言ってクリスを抱きしめてあげたかった。
 エリスティナは命と引き換えにクリスを守ったけれど、それだって死なずに守れたらと思わなかったことはない。
 エリスティナは帰りたかった。クリスのもとへ帰りたかった。

「ああ、あ、ぁあああ」

 エリナの唇から嗚咽がもれる。それはだんだん大きくなって、まるで子供返りしたみたいな泣き声になる。
 ひっく、ひっくとしゃくりあげるエリナを抱きしめて、クリスは静かに泣いていた。
 ダーナの足音がする。きっと、涙をふくための布を持ってきてくれるのだろう。

 それを知覚して、けれどエリナはそれになにも反応を返すことができないでいた。
 胸がいっぱいで、どうすればいいのかわからなくて、ようやっと思いついたそれを形にするには想いが大きすぎた。

 胸があたたかい。あの日貫かれた胸の鼓動が激しくなる。
 私は、生きている――……。