その一角に、当然のように綿毛をふわふわと揺らしているタンポポがほほえましくて、エリナはしゃがんで綿毛の一つに手をそえる。
 ふんわりとほどけて飛んでいく種がかわいらしい。

「ダーナ、どうしてここにはこんなに花が植えられているの?」

 少なくとも、エリナがエリスティナだったころはここはうらぶれていて、花の一輪だってありはしなかった。エリナが野菜ばかり育てていたのもあるけれど。
 そういう極限状態の離宮ばかり知っているから、今のこの庭園には違和感すら覚える。

 ダーナは、少し寂しそうな顔をして言う。

「竜王陛下の、大切なお方が住んでいた場所だからです」
「大切な、かた」

 ――まただ。
 脳がきしきしと歪むような痛み。うずくようなそれは、いつもわずかな鐘の音とともにやってくる。