ふわりと抱き留められる体。そこに「   」の記憶を揺さぶられるのに、それが誰だったか、空白に塗りつぶされたように思い出せなかった。

「エリー、大丈夫ですか?」
「う、うん、大丈夫。立ち眩みかな。ごめんね、クー……」

 へらりと笑って、エリナがクーを仰ぎ見る。――と。
 クーは、顔を泣きそうにゆがめて、エリナを見つめていた。

「クー……?」

 クーが、エリナを心配そうに見る。それはわかる。けれどその中に、心配以外の感情が見える気がした。悲しくて悲しくてたまらないような、それでいて、怒りを耐えるような、そんな感情。
 エリナはクーの頬に手を添えた。添えて、笑う。

「実は私もあんまり好きじゃないの。趣味が同じでよかったわ」

 エリナは、何度もクーの頬へ手のひらを滑らせた。