そう言って、クーは丁寧な所作でエリナの残りを平らげていった。
 一口一口は大きいのに、けして下品な感じがしないのは、彼の整った顔立ちのせいか、それともひとつひとつ美しいしぐさのせいだろうか。

 ぼんやりとそれを眺めていると、クーがエリナの視線に気づいて微笑みかけてくる。
 それは本当に嬉しそうで、ここにエリナがいるだけでしあわせだ、みたいな表情だから、エリナはどぎまぎしてしまうのだ。

 赤くなった顔を隠すために顔をそらす。
 この部屋には本を適当に選んできた、という急ごしらえ感満載の本棚が置いてあった。
 日に焼けない位置に置いてある本棚には数々の娯楽本も見える。
 それを眺めていて、エリナはあれ?と思った。

 下町ではそれなりに人気の題材である「悪役王妃」関連の本が一冊もないのだ。