クリスがその鐘の音に気づいたのは、エリナの家に通うようになって少ししたときのことだった。
 からん、からんと、鐘の音がするのだ。定期的に、エリナの住むアパートの周辺でだけ、不定期に――そう見せかけて、魔法をかける際に計算される、まじないごとの周期通りに、幾日も、幾日も音がする。

 そう言えば、エリナのアパートで気を失う前に聞いたのもこの鐘の音だった。
 悪意のこもった、鐘の音。
 クリスは、エリナに秘密にしながらも、その音の出どころを探った。
 エリナのアパートから帰る前に、周辺を名残惜しくて歩いているかのように回る。

 そうして見つけたのは、ひとつの魔法陣だった。
 暗がりにわずかに発光しているそれは、魔法の行使が終わった後の、使い捨ての魔法陣。
 消えかけている魔法陣に書かれた紋様を読み取ると、そこには「竜種の番を呪う」という言葉が書かれていた。

 エリナがクリスの番であると知っているものは、クリス以外にはいないはずだ。
 クリスは腹心の部下にもこのことを話してはいなかった。

 それなのに、エリナが竜種の番であることを知っているということは、クリスの跡をつけてきたのだろうか。