まあいいわ、とエリナが笑う。
 その時、エリナが食べているシチューが冷めているのに気付いた。
 クリスが泣き止むまで待っていたせいだ。エリナはそうやって、自分が損をしても相手をおもんばかってしまうのか。

 クリスは、エリナの手もとのシチュー皿に手を添えた。
 そうして、手にふわりと力を集中させる。魔法陣も、呪文もいらない。古典的なものは竜王の魔法には必要なく、ただ力のコントロールができればそれでいい。

 まばゆい金の光がテーブルを包み込み、光が収まると、シチューの皿からは再び湯気が出ていた。

「あったかい……」
「炎の魔法を少し使いました。その、焦げたりはしていないはずです」
「あなた、魔法上手なのねえ……」

 エリナが感心したように言う。
 練習したのだ、ということは言わず、クリスはただ微笑んだ。
 エリスティナを守れなかった、あの日に後悔したからこそ、必死で魔力の使い方を学んだのだ。