エリナが心配そうに、クリスに手を差し伸べる。その手をとって、クリスは泣いた。
「おいしい、おいしいです……」
「そ、そう……」
「大切なひとが作ってくれたシチューと、同じ味がします」
「ええ?そんな、たいしたものじゃあ、ないと思う、のだけれど」
「おいしい、おいしいです、とても」
「それは、よかった、わ?……でも、本当に、普通の味付けしかしていないのよ」
「僕にとっては、特別な味なんです……」
そう、クリスにとっては、特別な味だった。
味を感じないクリスが、数十年ぶりに感じ取った味は、心の味だ。
たとえ、エリナが仕方なくクリスのために作ったのだとしても、そこに込められた労りはたしかに存在した。



