エリスティナと竜王リーハの間には、5年間世継ぎが産まれなかった。
 当たり前だ。そもそも子ができるような行為をしていないのだから。

 しかし、子供を産めない、妊娠の兆候もない――重ねて言うが、そういった行為をしていないのだから当然だ――エリスティナを、竜王の周囲にいる竜種たちが口さがなく噂する。

 エリスティナとしてはそれでも別に良かった。離縁されるならされるで、その後の生活は苦しいだろうが、この針の筵のような生活から逃れられると思うとせいせいした。

 ある時は昼餐のスープに虫を入れられた。それくらいかわいいもので、水銀を飲まされそうになったこともある。身の危険しかないこの王宮で、エリスティナのよすがはもはや家族との思い出以外にありはしなかった。

 それでもまだ心を保っていられたのは、竜王がある程度理性的であったからだ。
 体の関係のない、白い結婚であることを隠すためにもそうしたほうがいいと思ったのだろう。