クリスの魂はエリスティナを番だと理解していたのに、肉体はエリスティナが番だと知らなかったのだ。
 だから、クリスの体は、今もまだ番と――エリスティナと出会っていないと思い込んでいる。

 50年経ったあたりで、自分の首を掻き切った。
 ほとばしる鮮血に、エリスティナと同じところへ行けると思ってほほ笑んだ。
 目を覚ましたのはエリスティナの墓標の前で、首の傷はクリスの中の有り余る魔力によって勝手にふさがっていた。

 60年が経った。クリスは絶望の中、自身の疎んだ感覚器官が、番の誕生を告げるのを感じ取った。

 番の魂はめぐる。いつか竜種のもとへ還るために。
 そういうものだ。そういう――呪いにもにた、因果だ。
 けれど、それが、生きた屍のようだったクリスに、正気を取り戻させたのは、きっと呪いと呼ぶべきものではなかった。