卵から生まれたとき、ぼやけた視界で最初に目にしたのは、空の色のように冴えた青い瞳。
 やわらかな胸に抱かれて、ぽろぽろと降ってくるあたたかい涙の粒を受けながら、クリスはこの世に産声を上げた。

「産まれてきてくれてありがとう……」

 クリスが生まれて初めて聞いたのは、そんな己への感謝の言葉だった。
 何もしていない、ただの赤子。劣等個体に生まれついた小さな命。
 劣等個体――そうだ。クリスは最初からすべてを知っていた。

 己がいつか竜王になる存在であること。そして、その力が周囲に影響を及ぼさぬよう、劣等種として生まれついたこと。
 そして――産みの親に疎まれ、捨てられ、エリスティナが拾ってくれなければ、ろうそくの灯のように消えゆく命だったことを、知っていた。

 竜王とは、この世で最強の竜種のことだと思われているかもしれない。
 事実そうだ。
 しかし、歴代の中でごくまれに生まれる、特に力の強いものは、少しだけ従来の意味から外れる。