「竜王陛下が以前劣等個体でお生まれになったとき、お育てになったのが、いわゆる人間貴族のご令嬢だったのです。今よりおよそ100年前、陛下が生まれたときに虐げられておられたそのご令嬢のような方を、もう二度とつくらないようにそうなさったとか」
「待って」

 エリナはダーナの言葉を遮った。
 知らないこと、聞きたいことが二つあった。

「劣等個体?陛下は劣等個体だったの?」
「はい」
「どうして?陛下は竜王じゃないの……?」

 竜王になるのは、竜の中で最強の存在だ。
 ただ強いものが選ばれるのではなく、人徳があるから選ばれるのではない。

 最初から竜王になるべくして生まれる、竜種の中でも特別な存在。
 それが……劣等個体?

 劣等個体、それは、竜王の対極に位置する存在で、生まれたときから不良品のレッテルを張られる、竜種にとって恥ずべき個体。竜種なら当然備えているはずの魔力もなく、腕力でも劣る。そんな存在が竜王になるだなんて聞いたことがない。

 けれど、ダーナはエリナの疑問をもっともだと思ったのか、ですよねえ、と微笑んで返した。