キスされている、と気づいたのは、くちづけを受けてすぐだった。
生ぬるい、けれど不快ではない感触が、エリナの唇に触れている。
好いた相手以外からの口づけは不愉快でしかない、いつどこの作家が言ったのだっけ。
嘘っぱちじゃない、と思って、エリナは顔を思い切りしかめた。
不快ではない。好きじゃないのに、クーなんてけして愛していないのに、このキスを受け入れてしまう自分が嫌だった。
「は、は……」
「エリー」
クーが、熱っぽくエリナを呼ぶ。
けれどすぐにその熱は引いて、まるで迷子の子供みたいな顔をして、クーはエリナの肩に頬を寄せ、ささやくように言った。
「言わないで。エリーには価値がある。僕なんかの番じゃなくたって、あなたには価値がある。あなたは僕にとって、本当にかけがえのない、素晴らしいひとなんです」
その声に嘘はなく。その声があんまりに悲しい響きを持っていたものだから、エリナは、エリナは……。



