「いや、いや、いや、いや……」
エリナは何度も何度も口にする。
祈った回数だけ番になる可能性が減るのなら、何度だって祈る。
――だけど、運命はいつだってエリナに――エリスティナに対して残酷だった。
かつん、かつん、とアパートの部屋に続く階段をのぼる音がする。
それは間違いなく、エリナの借りる部屋に近づいてきていて。
思わず、ベッドの陰に隠れたエリナは、そこではっと、部屋の鍵を閉め忘れていたことに気づいた。
近づいてくる足音が、部屋のドアの前で止まる。
なにかを告げる声。それは聞きなれたもののようだったけれど、何を言っているのか耳に入らない。
上手く言葉を咀嚼できない。
ほとんど恐慌状態に陥ったエリナは、ベッドのマットレスの端を、爪先が白くなるほど握り締めた。



