そんなわけがないと信じたい。だってこのアパートにはエリナの他にも何人も女性が住んでいる。
雑貨屋のアニー、レストランのメイズ、図書館の司書をしているルナ。
そんなにも、エリナが知るだけでそんなにも人が住んでいるのだ。
まさか、エリナなわけがない。迎えに来られた番がエリナだなんて、そんなこと信じたくもなかった。
かたかたと震える肩。お願いだからこっちに来ないで、と祈って両の手を組む。
「番は嫌、番は嫌、番になんて、なりたくない……」
今のエリナは人間貴族のエリスティナじゃない。
血筋にも生まれた身分にも、竜に選ばれる要素なんてありはしなかった。
その、はずだ。
よしんば、ごくごく小さな確率でエリナが竜の番だったとして、それが竜王だと――かつてエリスティナを虐げた竜王リーハの次代だと、そんなことがあるだろうか。
そんなむごいことがあるだろうか。



